「ホープの誕生日パーティー?」

弾んだ声でそう問い返したヴァニラに向かって思わず、しっと人差し指を唇に押し当てた。この場にその張本人が居るはずがないことはわかってはいるのだがなんとなく気恥ずかしいのとどうしても彼には秘密にしておきたい思いが相まって自然と声が小さく低くなった。

「ホープには言うなよ?」

秘め事となるとどうしても胸が高鳴ってしまうのが人間の特性。まるで軍部の最重要事項を密談するかのように額を詰め寄せそう告げたライトニングの言葉を聴いて、妙に生き生きと楽しそうにその場のメンバーはそれぞれ頷いた。

「んで?具体的には何すんだ?」

にやり、音をつけるとするならばまさにそうとしか言いようのない笑みをファングが浮かべる。スノウに至っては、ばしばしと固めた拳を自らの手のひらに打ち込み、腕がなるぜぇ、とでも言いたげである。

「私とスノウは会場の準備、ファングとヴァニラは食料の調達。セラとサッズは料理だ。」
「プレゼントとかは?」
「それは後々全員で選ぶ。」
「なるほど。」

メンバー的には実に微妙な区分けであるがそれぞれの特性を考えれば、セラとサッズが調理を任されるのは仕方のないことで、会場となるのがライトニングの家であることを考えると、スノウとライトニングがペアになる必要があったのだった。
真剣な表情で提案する者、にやにやと笑いつつその提案を聴く者、その図はどう考えても誰かの誕生日パーティーを開くという感じではない。
セラと共に食事のメニューを考えると言う大役を仰せつかったサッズはなんだかホープに申し訳なくなっていた。



*



そもそもホープの誕生日を祝ってやりたいと言い出したのはライトニングであった。が彼女の性格から考えて賑やかにパーティーを開く、などと言い出せるわけもなく、そのジレンマをそれとなく悟ったセラとスノウによってかつてのルシ面子(もちろんホープは除く)が集められ、その会議が開かれたのだった。
姉さんは素直になれないから、いろいろ支えてあげてね。食事のメニューを考えるべくサッズと共に街へ繰り出していったセラにそう諭されたスノウは部屋を飾りつける小物類を買いに行こうとライトニングに急かされながら頷いた。
街に出ればホープと鉢合わせることもありえる。自分はそういったことを誤魔化すのが上手い方ではない、むしろ苦手とする分野である(そしてそういったことを得意分野とするホープに勝てる自信など毛頭なかった)が、何しろ最愛の婚約者の頼みである。

俺はやるぜ、セラ・・・!

心のうちでそう決意をかためつつ、さっさと家の外に繰り出していくライトニングを追いかけるべく上着を羽織った。



通りを駆け抜けていく緩い風の微かな冷たさに思わずホープは服の首元を寄せた。ここのところ暖かな日が続いているとは言ってもやはり今の季節は寒くてかなわない。
彼は今父の元から離れ、大学へ通うために一人で暮らしていた。一人で暮らすとは言っても月に何度かは父の住む家に帰るし、近くに家を構えているライトニングやスノウのところで過ごすことも多かった。他にも幾つか行くことを考えた大学もあったのだが、ライトニングやスノウが住むところであればなにかあっても大丈夫だろう、と、一人息子の独立をやたらに心配していた父の主張もあって、彼は今そうして一人暮らしを営んでいるのであった。

今晩はライトさんのところにシチューでも持っていこう。

ライトニングとて料理をしないわけではなかったがそれはホープでさえ苦笑してしまうような男の料理であったり、面倒だからといって出来合いのもので済ませてしまうことが多いのを彼は知っていた。ホープはと言えば、亡くなった母の代わりに家事を引き受ける生活が長く、今や料理は得意分野にまでなっていた。
シチューとなれば材料を買わなくてはならない。ホープは自身の家にある野菜類を思い浮かべながら足りないものを買おうとスーパーに足を向けたが、予期せぬ光景を目にしぴたりと歩みを止めた。

「ほう、お前にしては趣味がいいな。」
「だろ?気に入った?」

お洒落な服屋や雑貨屋なども立ち並ぶその通りのとある店の軒先でライトニングとスノウは親しげに何やら品物を覗き込み話し込んでいた。ホープが動揺したのは彼らが二人きりであったということだ。いつもならその間にセラの姿があり、ホープだって迷うことなく話しかけるところである。しかしあまりにも二人が笑顔で話しているところ、まあスノウが気さくな笑顔で話しているのはいつものことなのだが、特にライトニングの柔らかく何か大切なものに向けているような微笑みが胸に刺さった。

まさかライトニングとスノウが二人きりで買い物を?
話している内容からしてスノウがライトニングに何か贈り物をするようでもある。
まさか、二人が・・・

ありえない、そう言い聞かせても悪い考えは彼の意思に反して脳裏を駆け巡る。
結局彼は夕飯のための材料も買えず終いに踵を返した。



パーティーに必要となりそうなものを雑貨店でひたすら買い込んだ帰り道、スノウはとあるアクセサリー店の前で足を止めた。多くのアクセサリーが所狭しと並ぶ中、彼が目を留めたのは男性物のシルバーアクセサリーで、男性物にしては華奢な作りと埋め込まれた薄い黄緑の小さな宝石が目を引いた。義姉さん、と手招きしそれを手にとって覗き込んできたライトニングの目の前にかざすと、彼女もスノウと同じことを考えたようで、例の大切な誰かに思いを馳せるときの柔らかな笑顔で頷いた。

「ほう、お前にしては趣味がいいな。」
「だろ?気に入った?」

二人が考えていたのは誕生日を祝う予定となっているホープのことである。そのネックレスは細身ですらっとした大人になったホープにぴったり似合うように思われたのだ。

「プレゼントとか用意するんだろ?皆から一個?」
「まあな。」
「んじゃーこれでいいんじゃねぇの?」

あっけらかんと安易にそう提案したスノウの相変わらずな短絡思考にライトニングは深い溜息を吐いた。何でも考える前に行動するのがこいつの長所であり短所でもあるのだが、流石に呆れを隠せない。

「お前なぁ、全員から渡すものなんだから、全員で選ぶべきだろう?」
「ああ、そっか。全然考えてなかったぜ!」

ははは、と笑うスノウにもう一度わざとらしく溜息を置いてライトニングは再び帰路を歩き出す。お前は考えてないんじゃなく、考える気がないんだろうが・・・、そう脳内で呟きながら。



*



ホープは彼是一時間に渡って迷っていた。結局夕食はシチューではなく家にあったものを適当に調理して一人で済ませてしまい、今はちょうどシャワーを浴びた後、コミュニケーター片手にベッドに座り込んでいる。
今日のことをスノウに確認するべきか、否か。迷っていることというのはそれであった。尋ねてみれば、ただの自分の杞憂で、なんでもないことかもしれない。スノウはあっけらかんと理由を答えてくれるだろう。けれど、もしそうでなかったとき自分はどうしたらいいか・・・、わからない。いつも裏表なく明るく笑って真実だけを言うスノウが口ごもりでもしたら・・・。そう想像するだけでなんだか恐ろしかったのだ。
そんな風にぐるぐると悪い方へ悪い方へ考えてしまう自分にも嫌気が差し、ホープはがしがしと頭を掻いた。こんな風に考えているだけではどうしようもない。彼は真実を尋ねることを決断し、一つ深呼吸をするとスノウへのコールボタンを押した。
いくつもコール音が続く。その無機質な音が続けば続くほど嫌な想像と心臓の音も高まっていった。早く出てくれ、そう瞳をぎゅっと瞑った時、あっけらかんとした軽い声が電話の向こうで自分の名を呼んだ。

『ホープ?どした?』
「あ・・、スノウ・・・、いきなりごめん。」

思わず今までベッドに投げ出していた足を引っ込めてそろえてしまう。緊張で喉がからからだった。

「あのさ、今日・・・、どっか出かけた?」

ライトニングと一緒に何をしていたか、と直球に聞こうかと迷ったが、結局そんな探りを入れるような聞き方になってしまう。ああ、本当に度胸のない奴だ。そう自分を卑下しながらスノウの返事を待つが、いつもだったらコンマ二秒で考えなしに答えてくるはずの声がない。どくん、と心臓が大きく音を立てた。

『いや、行ってない。』

僅かに口ごもるように、スノウはそう告げた。
いつも馬鹿のように正直だからこんなことになるんだ、ホープはぎゅっとコミュニケーターを持っていない方の手でシーツを強く握り締めながらそう思った。スノウの嘘はあまりにも明白で、言い方にしても声色にしても嘘を吐いていますと明言しているようなものだ。

「・・・そっか。ならいいや。」
『なんかあったか?用事か?』
「ううん、なんとなく。変なこときいてごめん。じゃ、おやすみ。」

一方的にそう畳み掛けるように別れを告げてホープはスノウとの通話を切った。スノウはライトニングと二人で出かけたことを自分に隠した。自分だけじゃない、もしかしたらセラにだって隠しているのかもしれない。
自分がずっとずっと思いを寄せてきたライトニングと、スノウは、今日二人きりで、仲間からも隠れて一緒に過ごしていた。ホープにとってその事実は考えたくもない悪い想像を肯定するには十分のことだった。彼は明日からライトニングとスノウにどう接すれば良いのか、そんなことを悩みながら、いつの間にか眠ってしまっていた。



*



とんでもなく、憂鬱だった。昨日は休日で久々に父の元へ帰ったホープだったのだが、父の元を発つ時に彼が仕事先で買ってきたとかの(実を言えばよく聞いていなかったのだが・・・)お土産を三箱渡された。嫌な予感と共に、三箱の所以を尋ねると素敵な笑顔と共にライトニングとスノウへも渡しなさい、と告げられたのだ。
あの事件以来ライトニングにもスノウにも一度も会っていなかった。会わない時間が長くなれば長くなるほど悪い想像は膨らんだ。今もライトニングの家に足を運びつつ溜息を吐いている自分がいる。こんな気持ちでライトニングに会いに行くのは初めてだった。いつだってライトニングに会いに行くことはとても嬉しいことで、家に行けば大抵は夕食を共にしていた、けれど、今は早く帰るための言い訳さえ考えている。なんだか、自分がやましいことをしたみたいだ。
ホープはライトニングの家の前に立ち、もう一度溜息を吐いてからベルを押す。するとそれはいつもよりも重く感じられる音で響いた。いつもならば一瞬の間の後、インターホンからライトニングの落ち着いた返事が聞こえてくるところであった、が、今日は違った。
家の奥から、はーい、という無骨な返事と共にばたばたとした足音が近づいてきた。表にいる人物が誰かという確認もなしに扉を開いたのはライトニングではなく、スノウだった。
小さく息を呑んで瞠目したホープと、まずいことをした、と明らか顔に出して硬直するスノウ。二人の間に気まずい沈黙が落ちた。先に動いたのはホープだった。
彼は手にしていた二つの箱をスノウの腕に押し付け、顔も合わせないまま踵を返す。

「それ、父さんから。スノウとライトさんに。じゃあ、僕は帰るから。」
「お、おいホープ!」

引き止める声も聞かず早足に歩き出す。血が上る、というよりも頭が真っ白だった。スノウを責める思いも、ましてやライトニングを責める思いもなく、ただ自分ひとり取り残されたような虚無感を味わっていた。背後ではスノウが何やら騒いでいる声が聞こえたがそれすらどうでもよかった。

「ホープ!」

大きな声で彼を再び呼び止めたのはスノウではなかった。ホープは唇をかみ締め、立ち止まったが、振り返ることはできなかった、いや、振り返らなかった、のほうが正しいかもしれない。風が冷たいと言うのに上着も着ずに走って追いかけてきたのだろう。ホープに追いついてその肩に手を置いたライトニングは少し寒そうであった。
何を言うべきか迷って、ホープは必死に笑顔を作る。

「ライトさん、どうしたんですか?風邪引きますよ?」
「ホープ、お前こそどうしたんだ。ここのところ来なかったから、心配していたんだぞ?」

ライトニングの言葉に嘘はないようで細い眉を小さく寄せてホープの前に回りこんだその声は彼を気遣うような声色だった。もし僕が来たら今日みたいにスノウが居たんじゃないですか、そう皮肉に吐き捨てそうになり、必死でこらえて笑顔のままホープは答える。

「だって、お邪魔でしょう?」
「・・・何のだ?」

いつもはっきりと物を言うライトニングの声に、迷いが含まれた。ホープは腹の底で押さえきれない感情が鎌首をもたげるのを感じる。

「何のって、今もスノウと一緒にいたんでしょう?」
「お前、何を言って・・・」
「この前もスノウと一緒に出かけてましたよね?まあ、別にライトさんにとっては僕が知ってても知らなくてもどうでもいいんでしょうけど。」
「ホープ、お前はなにか誤解を・・・」
「誤解ですか?何がですか?スノウのほうがいいならそう言えば良いでしょう!?」

気付けば肩にかけられたライトニングの手を乱暴に振り払いそう叫んでいた。ライトニングには自分の感情などわからないのだ。スノウと一緒に時を過ごしながら自分を心配なんてしてほしくなかった。

中途半端に構うのはやめてくれ・・・!

「僕の心配なんかしなくていいですよ・・!スノウと一緒にいればいいでしょう!?」
「ホープ!!」

叱咤するようにそう名前を呼ばれたがもうどうにも収まらなかった。引きとめようとするライトニングの手を振り解き駆け出した。悔しさと、悲しさと、やり場のない怒りがホープを苛んでいた。



半ば涙目のような勢いで自分を責めたライトニングに反抗することはできなかった。確かに尋ねてきた人物を確認するのを怠ったのは自分だし、ホープからの電話でうまく対応できなかったことも事実だ。けれど・・・、

「そんなに落ち込まなくてもいいんじゃ・・?」

ライトニングはすっかり落ち込んでしまって、もう嫌だ、などと呟きながらソファに体育座りをしている。よっぽどホープに怒鳴られたのがショックだったらしい。

「まぁ、義姉さんは見たことなかったか・・・」

あいつ、怒ると怖いんだよなぁ・・・
彼の素直で真っ直ぐな気質からか、どこか早とちりや勘違いをすることが多く、普段穏やかであるだけに激するととんでもないほど怖い。スノウはライトニングを慰められるであろう婚約者に助けを求めるべくコミュニケーターを取り出す。

ホープの誕生日は明日にまで迫っていた。



*



家から出る気力も、ベッドからでる気力さえもなかった。昨日ライトニングに対して理不尽な怒りをぶつけた後、やはり何もする気がおきずそのままベッドに倒れこんで寝てしまい、服も髪も何もかも昨日のままだった。
せめてシャワーくらい浴びよう。そう思い立ち、のそのそとホープは行動を開始した。ざっとシャワーを浴びた後、台所にあったパンを焼くこともせず、何かをつけることもせずそのまま貪る。台所にぽつねん、とたたずみ、もさもさと口を動かしながらホープはちょっと泣きそうになっていた。なんだかとっても惨めだ。そう胸のうちで呟いたときだった。

ピンポーン

普段あまり使われることのない家のチャイムが高らかに鳴り響き、彼は文字通り飛び上がるほどに驚いた。とんとんと胸をたたきながら水分が足りず口内に張り付くように残っていたパンを喉のおくへと押し込み、慌ててインターホンをとる。

「はい、」
『あ、ホープ?あたし、ヴァニラ!』
「え?ヴァニラさん?なんで・・・?」
『いいから開けてよー!』

おかしい、どうしてヴァニラがここにいるのだろう、彼女はファングと共にかつての彼女たちの故郷に宅を構えているはずだ。こんなところにいるはずがない。そう疑念を抱きつつドアを開けるとそこにはヴァニラだけでなくファングの姿までもがあった。

「ひっさしぶりー!」

いつもどおりのテンションの高さでそう告げるヴァニラにいまいち追いつけないままホープは、お久しぶりです、などと返事を返す。ホープの戸惑いなどまるで意に介さず、ファングが彼を急かした。

「ほら、出かけんだからさっさと準備しな!」
「え?出かけるって、どこにですか?」
「いいから早くしろ。ここで待ってるからよ。」

何なんですか?と問い返す暇もなく乱暴にドアを外側から閉められた。理不尽だ。わけがわからない。口には出さないまでもそう脳内で文句を吐きながらホープはとりあえず彼女たちを長い間待たせるわけにもいかず、慌てて服を着替える。一体どこに行くというんだろう。どこかに出かけたい気分などではないのに・・・
再び顔を出せば、おせーぞ、と理不尽な文句が振ってきた。

「あの、僕あんまり出かけるような気分じゃ・・・」
「んじゃ、いこっか!」

はいはい、いくよー!といつもどおりの強引さでヴァニラはホープの手を引き歩き出す。無駄だとはわかっていても、説明してくれ、という目でファングを見ずにはいられなかった。

「ま、すぐにわかるさ。」

・・・・・答えてはくれなかった。



今のホープにとっては最も足を踏み入れたくないライトニングの家に連れて行かれ、彼は相当反抗した。けれども、その反抗もむなしく、いいから入れ!とファングに半ば蹴っ飛ばされるようにしてライトニングの家に押し込まれ、彼は今度こそ本当に泣きそうであった。
奥に入りたがらないその背をファングとヴァニラは無邪気に押していく。もう嫌だ。本気でそう思ったとき、突然のクラッカーの音と共に大きな声で叫ばれた。

「誕生日、おめでとう!!」

ぱちくり、と瞬きすれば、そこにはかつてのルシ仲間がそろっており、サッズの息子ドッジも、セラもたった今空になったクラッカーを手に笑っていた。
視線を走らせれば、ライトニングもクラッカーを手に複雑そうな顔をしており、スノウは苦々しい顔をして拝むように手をあわせ、ごめん、と口パクした。

「・・・え?」

未だ事態が把握できないホープに対してセラが笑う。

「ホープ君、今日誕生日でしょ?お姉ちゃんがね、どーっしてもホープ君の誕生日パーティーがやりたいっていうから、皆で計画したの。お姉ちゃんもスノウも不器用だから・・・、なんか、いろいろあったみたいだけど・・・」

でも、お姉ちゃんもスノウもホープ君に秘密にしたかっただけだから、許してあげてね。そんな風に語りかけられ、ホープは途端、脱力した。

「・・・じゃあ、街で二人で居たのも、」
「今日に使うものの買い物してたんだ。わりぃな、ホープ。」

すまんっ、と再び頭を下げたスノウから目を離し、ライトニングを見れば、彼女は小さく眉根を寄せてそっぽを向いている。

「二人で家に居たのも・・・」
「今日の準備だ。」

別にスノウと仲良く話していたわけじゃない。そう付け足しライトニングは苦笑した。

「お前にあんなことを言われて、結構傷ついたんだぞ?」
「・・・・すみません。」

確かに、そう考えてみれば昨日自分はかなりひどいことをライトニングに言ってしまった。申し訳なさと恥ずかしさからホープは俯く。どうして思い当たることが出来なかったのだろう、ホープは一人で勘違いして先走り、激昂した自分がどうしようもなく情けなかった。

「でも、いい。これで誤解はとけただろう?」
「・・・はい。本当にすみません・・・、」
「気にするな、ホープ。おめでとう。」

柔らかくライトニングがそう微笑んで祝いの言葉を述べたのを皮切りに、仲間達のどんちゃん騒ぎが始まった。



*



ホープは何時間にも渡るパーティーのなかで火照った体を冷まそうと一人ベランダに出てきていた。何しろ今日彼らが集まったのは自分の誕生日を祝うためのものなので抜け出すことは困難だったが、段々テンションが最大値に近づき、ぎゃあぎゃあと好き勝手に騒ぐようになったのでこっそりとその輪を離れてきたのだった。
セラとサッズが用意してくれたという沢山の手のこもった料理はかなり美味であったし、仲間全員からだといって渡されたプレゼント、中身は新しいモデルのブーメランであったのだが、それも、もう使いませんよ、とおどけて笑いながらもとても嬉しかった。
すっかり暮れなずみ星が光り始めた夜空を見上げてホープは軽く息を吐く。自分はとても幸せだ。仲間がこうして祝ってくれようとしていることに気付かず一人で頭に血を上らせていたことは滑稽であったが、ライトニングもスノウも自分が考えていたよりはそのことを気にしていない様子で、ホープは正直ほっとしていた。

「ホープ、」

からり、と窓が開けられる音と共に優しく澄んだ声色で呼びかけられた。振り返らなくてもわかるライトニングの気配は静かに自分に歩み寄ってきている。

「疲れたか?」
「いいえ、すこし火照ってしまって。」

ライトさんはどうしたんですか、そう尋ね返すと、私もお前と同じ理由だ、と簡単に返された。見れば確かにその白い頬は軽く上気しているようで、頭がぼんやりしてかなわない、と、隣の思い人は笑う。

「ライトさん、僕、本当にすみませんでした。酷いこと言ってしまって・・・、」
「いいんだ。スノウの言い方も私の言い方も悪かったんだから。気にするな。」

そう穏やかに言って柔らかく微笑まれ、ホープは小さく頷く。自分の勘違いから彼女を傷つけた申し訳なさと、自分の考えがただの早とちりであったことへの安堵からホープはなんだかすっかり力が抜けてしまっていた。
夜空に星が瞬く。彼らは自分たちを見守るように小さく小さく息づきながら濃紺の空に身を埋めていたがふいに残像をまとった箒星になった。

「あ、ライトさん、今、見ました?」
「何を?」
「流れ星ですよ、あそこに、ひと、つ・・・?」

たった今一つの星が流れていった箇所を指差し、隣のライトニングを振り返った瞬間、流れ星の存在を告げようとした唇を優しいキスでふさがれた。
ライトニングの睫が自分の目の前で揺れる。その淡い海のような瞳に自分の瞳が映っていた。

「ライト、さん・・・?」
「ホープ、誕生日おめでとう。」

半ば誤魔化すようにホープの問いを遮ってライトニングはそう祝いを述べた。部屋で火照ったのか、それとも先ほどの口付けの名残か、ライトニングの頬は淡く色づいている。
何も言えず、ただライトニングを見つめ返したホープの手に小さな箱が握らされた。

「これは、私からのプレゼントだ。気に入ればいいが・・、」

他人へのプレゼントなど、選んだことがなかったから、とこぼすライトニングの手にそっと触れて、ホープは、開けてもいいかと許可を請う。戸惑いがちに頷いた彼女の目の前で、ホープはそっとリボンを解いた。
そこにあったのは予てからライトニングがその首に下げていたネックレスと対のようになっている造りの男物のネックレスであった。ライトニングのものよりはごつい印象を与えられるが、それなりに華奢で、繊細な造りになっていた。

「私のを見せて、作ってもらった。」
僅かに照れたように口ごもりながらそう話すライトニングに対し、ホープはありがとうございます、と礼を述べる。
ネックレスを緩く握り締めて、ホープは笑った。ライトニングが自分と対になるようなものを送ってくれた、云わばペアネックレスだ。それだけでホープは本当に心から嬉しかった。
よかった、と微笑むライトニングにホープはそのネックレスを差し出す。ライトニングは一瞬きょとんとしたが、彼が意図するところに気付いたようで困ったような顔をして頬を赤く染めた。

「ホープ・・・、」
「お願いします。」

嗜めるような口調を遮ってホープは笑う。

ホープが少し屈むようにして彼女がネックレスをつけやすいようにしてやると、ライトニングはその赤い顔を保ったままホープの首の後ろに手を回した。
ネックレスをつけ終わり、離れようとしたライトニングの腰に手を回し、ホープはその身体を抱きしめた。ふわりと香るライトニングの髪に顔を埋め、その耳元で呟く。

「大好きです、ライトさん。」

きつく抱きしめ自らの胸にライトニングの頭をかき抱く。すると、思いがけない言葉が返ってくるのであった。

「私もだ。」

驚いてその顔を覗き込むとライトニングは淡く頬を染めたまま微笑んでいた。

「おめでとう、ホープ。」





And...



One more kiss



For you










こんな辺境サイトに相互リンクしてくださった「PepuPu」の光希様に捧げます。
読んでくださった方はお分かりになると思いますが・・・
このサイト上かつてない長編になっております(笑)
そもそも管理人、何の脈絡も落ちもない短編しか書けないため、かなりの時間を要してしまいました。
その上上手さの欠片もありませんが・・・、こんな小説でも楽しんでいただければ幸いです。
では光希様に、愛を込めて。

Starless 入