スノウは正直言って驚いた。本当に、正直なところ驚いたのだ。
電話での声やその落ち着き具合、そして彼自身も言っていた身長のこと、全て理解していたつもりであったのに列車からその父と共に降りてきたかつての少年の姿を見ても一瞬誰かわからないほどであった。

義姉さんの驚く顔が楽しみだ。

スノウはすっかり大人の男に成長したホープに手を振りながらそう思った。



「もー!早くセラのウェディングドレスが見たいーっ!」
「どーうせ後で見れるだろうが。」
「そういう問題じゃないよー!」

ライトニングはかつてと何も変わらない仲間たちの会話を聞いていた。ヴァニラもファングもサッズも、そしてライトニングもセラとスノウの結婚式に出席すべくそれにふさわしい服装に着替えてさえいたが、その仕草も口調も、そして外見までもが、なにもかも5年前のままだった。

「それにしてもサッズは変わらないなぁー」
「うっせぇな、父ちゃんの外見はそう簡単に変わらないんだよ!」
「ま、おっさんだしな。」

二人の仲間のいない空白の期間ずっと夢見てきたそんな取り留めのない会話が続くのを眺めるうちに、外から小さな足音が近づく気配を感じた。それは仲間達も同じだったらしく、彼女たちも一旦会話を止めて扉の方を顧みる。ヴァニラが嬉しそうな声で、ホープかな?と言ったとき、ちょうど扉が開いた。

「こんにちは、お久しぶりです。」

礼儀正しい挨拶と共に扉からすらりとした動作で入ってきた一人の青年を見て、その場の空気が固まった。

すらりとした細身の長身と、精悍な顔つきの瞳には優しげな光が宿っている。
そこにはかつての幼かったその輪郭は全く残っていなかったが、その瞳や髪、そしてその低くなった声と口調は明らかに彼らがよく見知った少年のものであるわけで・・・、

「え・・・?ほー、ぷ?」

唖然としたまま小さくヴァニラがそう呟くと青年はかつてとは違うなんとも甘く柔らかい微笑を浮かべ、(まあおそらく彼自身は何も変わらないつもりなのだろうが)そっとヴァニラの手を取った。かつてヴァニラの胸の中にすっぽりと納まり、弟のように抱きしめたその身体は今や彼女の背を随分と追い越してしまっている。

「お久しぶりです、ヴァニラさん。」
「え、あ、う、うん・・・」
「お元気そうで、本当に嬉しいです。」
「う、うん・・・」

ホープのあまりの成長に戸惑うヴァニラは上手く返事をすることも話を続けることも出来ずに曖昧に頷くだけである。ホープは小さく首をかしげた。

「ヴァニラさん?」
「え、あの、・・・本当にホープ?」

硬直したままの仲間たちの言葉を代弁するかのように困惑気味に発せられたその一言に対してホープは一瞬の沈黙の後、切なげに眉を寄せた。

「たった五年で忘れちゃったんですか・・・?」

その確認の言葉が多少ショックだったようで彼は小さく俯いて、酷いです、と呟いている。やっと硬直状態から抜け出したサッズが慌てたようにホープに歩み寄った。

「そりゃ、こんなに成長しちゃあ一瞬わかんなくてもしかたねぇよ。」

しかしでっかくなったなぁ、とホープの肩に触れるサッズのことをホープは明るい瞳で見つめ返し、嬉しそうに頷いた。自身で感じていた成長も自分で思うより他人、かつての旅の仲間に言われる方が何倍も嬉しかった。

「旅が終わってから急に背が伸びて、服とか靴とか、あと成長痛も大変でした。」

大変でした、と語るわりには嬉しげなその様子にヴァニラも普段の調子を取り戻し、おっきくなったねー、などと楽しそうに話している。

「いやぁ、驚いたなぁ、あのホープがこんなに伸びるなんてよ。」
「あの、ってなんですか。まだまだ成長しますよ。サッズさんだって追い越しますから。まぁ、スノウほどは伸びたくありませんけど。」
「確かに!あれは結構無駄だよねー!」
「おいおいヴァニラまで、思っても言っちゃいけねぇよ。」
「思ってるんじゃないですか。」

きゃいきゃいとはしゃぐヴァニラと感慨深げに頷いているサッズ、そして大人びた笑顔で受け答えをしているホープを尻目にじっと黙りこくっているライトニングの肩をファングが叩いた。

「よう、ライトどうした?驚いて声も出ねえか?」
「・・・ああ、まあ、な。」

普段のライトニングの態度を考えればあまりにも素直すぎる答えにファングはきょとんとした。自分としてはからかったつもりだったのだがどうやらライトニングは自分たち以上に、そしてファングが予想していた以上にショックを受けていたらしい。

さて、この衝撃が彼女に何をもたらしたやら・・・

ファングは胸のうちでそう考え小さく笑いを浮かべながら、未だ立ち直れて居ない様子のライトニングと楽しげに笑っているホープとを見比べた。



ライトニングは困惑していた。すっかり成長したホープを目にしたときはやはり当たり前だが驚いた。しかし、驚くと同時に奇妙な胸の高鳴りを感じた。
その高揚の正体もわからぬままの彼女に次々と目に飛び込んでくる青年の柔らかな微笑み、明るい笑顔、小さく眉を顰める表情、その全てがちくちくと胸を刺すようで、彼女はぎゅっと自らの服の胸元を掴んだ。

どうしようもなく、切ない。

ファングの問いに答える声も上の空で、ただホープの表情一つ一つが脳裏に、胸に焼きついていた。





嗚呼是の胸の高鳴りは










リクエスト、「久々の再会で身長差の話」でした!
「僕等の幸せ」の続編となっております。
本当は披露宴のところまで書く予定だったのですが・・・
そこはまた次回、ということで・・・
ライトさんに変化、な回です。がんばれホープくん!
リクエストありがとうございました!!