ルシが世界の敵だろうと、化け物だろうと、眠りの夜はやってくる。
化け物同士身を寄せ合って火を囲むと、自然と当てもない未来の話に花が咲いた。
一人の父親の息子と過ごす平和な休日の夢を語りだすと、熱い男が乗っかった。
故郷の浜辺で、厳しい旅のなかに見てきた景色の数々を婚約者に語るのだと意気込み、遂には立ち上がりその愛を叫び始める。
まぁまぁ、となだめる少女とうるせぇと罵りながらも楽しそうに笑う女。

そんないかにも平和を具現化したような光景をライトニングは少し離れたところに腰を下ろし眺めていた。
愛を叫んでいるその内容は実に気に入らないが、奴の考えは悪いものじゃない。あの美しい浜に腰を下ろし妹に誕生日パーティーの礼を言って、しぶしぶながらも結婚を許し、花嫁衣裳を選んでやれたらどんなに幸せだろうか。妹は面倒見がいいからきっとサッズの息子を可愛がるだろう。ヴァニラとも仲良くなって少女同士の話に花を咲かせるのかもしれない。自分はファングとサッズとそれを見ながら穏やかに話せるだろう。

そんなものありえないといって夢をばっさり切り捨てようとする自分もいたが、一夜の夢であるならそれぐらいのことを自分に許してやりたいというのが本心だった。

ライトニングは軽く笑った。

誰かを頑なに拒む気持ちも、甘えを許せないような気持ちも、ルシになって旅をして、いつの間にかどこかにかなぐり捨てていた。旅を始めた当初は他人を拒み一人で進むことが一番大切だとさえ思っていたのに、

不思議なものだ。

「ライトさん?」

はっと顔を上げれば先ほどまでスノウの傍で笑っていたはずの少年が自分を覗き込んでいた。
思わず笑いをこぼしたところを見られたのかと多少気恥ずかしくもあったが、小さく笑い返す余裕さえも以前とは違い、ルシである自分にはあった。

「ん?どうした?」
「いえ、少しぼーっとしてらしたみたいだったので、」

隣、失礼します。そう丁寧に断ってから静かに腰を下ろした少年は、まだぎゃんぎゃんと騒いでいるスノウの姿を楽しそうに眺めている。ライトニングはその横顔をちらりと見て、彼が大人になったことを感じた。不安定で壊れそうで思い出にすがり付いていた子どもはもういない。そこにあるのは自分の足で立って自分で考えて未来を力強く見据える青年の姿だ。
自分が守らなければつぶれてしまうと思っていた、が、実は救われたのは自分だったのかもしれない。あの時、傍らにこの少年なしで進めただろうかと自問すると、頷く自信はない。

「ライトさん、ライトさんはどうしますか?将来。」
「将来、か、」

呼ばれてたことに最初は気付かなかったようで、また大丈夫ですか、と心配されてしまった。笑って大丈夫だと断ってから先ほどの考えに再び思いを馳せる。が、この場で妹に謝りたいと言うのはあまりにも重い気がして、言うことを躊躇った。結局、予定は未定だ、とまたぶっきらぼうに答えてしまう。

「じゃあ、僕の予定に付き合ってもらえませんか?」

間髪いれずそう食いついてきた彼を驚いて見返すと、その瞳はあくまで真剣に自分を見据えていた。
一体なんだというのだろう、おずおずと頷くと少年は安堵の息を吐き、肩から力を抜いた。それきり、一向にその内容を言い出そうとしないのでたまらず、ライトニングは続きを催促した。

「それで?その予定って言うのは?」

とたん、少年の肩が再び強張り、その喉がごくりと唾を飲み込むのが目に見えてわかった。
そのまま、えっと、その、あの、などと歯切れ悪く言いよどんでいるので、そういうところは変わらないなと、思わず笑いがこぼれた。

「笑わないでください、」
「すまない。」

笑いながら謝罪すると、全然悪いとおもってないじゃないですか、と拗ねた声が返ってくる。くすくすと笑い続ければまた何か言われるかと思ったが予想に反して少年はそれきり黙ってしまった。
名を呼んでどうかしたか、と尋ねると、再び決意を秘めた瞳で見つめられた。

「僕と、ボーダムで花火を見てください。」


予想外だった。少年は真剣に自分を見上げている。

ああ、大人になったな。



すこし驚いたが、迷うことはなかった。

「いいぞ、ホープ」





願い、叶えたい夢