ホープは肩にかけた鞄を床に落とすと、軋む身体をベッドにうずめた。 一日中身体を襲う鈍い節々の痛みに彼はもう嫌気がさしていた。最近膝や背中が痛いな、と感じることは増えていたが、ここのところの二、三日は特にそれが酷く身体がぎしぎしみしみしと音を立てているようであった。 横になっても収まることのないそれにいいかげんにしてくれ、と呟きながらホープは天井を見上げる。昨晩思わず父にその痛みについてこぼしたところ、父は成長痛ではないか、と明るく言った。確かにその言葉の通り急に靴が小さくなったり制服の袖や裾が短くなったりということは起こっていた、が、成長するためにこんな痛みが必要なんて知らなかった、と恨むものもないのに恨み言を呟いてしまう。 けれど休んでいる余裕はなかった。これから洗濯物を取り込んで夕飯を作らなければならない。わかってはいてもいつまで続くかもわからない鈍い痛みに常に付きまとわれていては憂鬱にもなる。ホープは今日何度目になるかもわからない深い溜息をついた。
そう学校の友人に言われたのはそんな日々が少し続いてからのことだった。そういった友人はホープの姿を上から下まで眺めると、やっぱりでかくなったよな、と一人納得して頷いている。 「そうかな?」 昼食に持ってきていたサンドイッチの包みを丸めてゴミ箱に放りながら曖昧にホープは聞き返す。毎日身長を測っているわけではない。一気ににょきりと伸びるわけでもあるまいし、どれだけ伸びたかなんて自分ではわからなかった。
「絶対、伸びたって。成長期?」 そんな理科の実験のなんとかのツルが伸びる早送り映像でもあるまいし、と笑いながら、オレンジジュースのパックにストローを突き刺し、口にくわえる。彼は旅から帰ってきてからというのも機会があるたびに牛乳を飲むことを習慣としていたが、ここのところの痛みに遂に嫌気がさして牛乳を飲むことをやめてしまっていた。
「だってお前伸びたかったんじゃないの?」
確かに。そうだ。 どうしても追いつきたかったのだ。 片思いの相手の身長に。
そもそも、恋に落ちた当初は女性に興味なんてなくあまり考えたこともなかったが、ライトニングは女性の中では結構身長が高い方に属するのだと思う。クラスの女子はもちろんだが、学校の教師、街を行く人々を見ていてそう思う。まあ、同じ旅の仲間にファングという更なる長身を持っている女性がいたからあまり気にならなかっただけかもしれないが。 伸びてくれるのは嬉しいのだけれど、
「まあ我慢すれば、すぐに二メートルぐらいになるって。」 二メートル、その単語に思わず自分がスノウのような体格になっているのを想像してしまう。いくらスノウでも二メートルはないと思うが、イメージ的にはあんな感じだろう。 鳥肌がたった。 「まあ、伸びさえしてくれればいいか。」 独り言のように呟き、立ち上がると確かに視線が高くなった気がした。ライトニングの頭が自分の視線より少し下にある映像を思い描けば、少し気分が弾んだ。 痛みも、和らぐ気がするほどに。
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