ゆらゆらと炎がダンスしている。魔物を避け、寒さをしのぐために焚いたそれは墨を垂らしたような空へと燃え上がった。今日の寝ずの番はライトニングの仕事で、グラン=パルスという広大すぎる台地を一日中歩き回った一行は、体力馬鹿のスノウでさえも疲れきりとっくの昔に眠りについていた。 遠く遠く旅してきたであろう夜の風が青い草を揺らし、優しい音をたてる。ライトニングは一人、やることもなくかつてこの大地を地獄と信じていたころのことを思い出していた。 どこが地獄なものか、
彼女は小さく笑いをこぼした。確かに、傍から見れば今の自分たちの境遇は地獄かもしれない。けれど、彼女自身、このような運命を未だ恨む気持ちはあっても、今の仲間と出会えたことは得がたい奇跡だと感じていた。 そんな物思いに耽っていると小さな物音が鼓膜を震わせた。魔物だろうか、ライトニングは腰の剣に手を伸ばして立ち上がり、物音がした方の草原に注意を向けるが動く者の気配は何もない。気のせいか、そう安堵して火の元へ戻るとぐっすりと眠っていたはずのホープがゆっくり身を起こし、眠たい目をこすっているところであった。 「らいとさん・・・?」 身体は起きても脳は覚醒していないようで、妙に幼い口調で自分の名を呼ぶその姿にライトニングはくすりと笑った。起こしてしまったか、悪いことをした、そう考え先ほどと同じところに腰を下ろし、音が聞こえたが空耳だったようだという顛末を話すと、ホープは安心したように小さく笑い、お疲れ様ですとライトニングを労った。
「いいや、起こしたな。すまない。」 完全に起き上がりライトニングの隣を指差す少年に無言で頷くと、彼は嬉しそうにライトニングの隣に腰を下ろした。起きたばかりのどこかぼうっとした表情に加えて、もとからクセが強い髪があらぬ方向に跳ねている、そんなホープの様子を見てライトニングは再び笑いをこぼした。 「跳ねてるぞ、」
そう言って髪を撫で付けてやると、彼はあわてたようにその撫でられた箇所に何度も何度も手を往復させたが一向に髪の流れは言うことを聞かず重力に逆らっている。しばらくホープは手を動かしていたがどうやら諦めたようで小さく肩を落とした。
「くせっ毛なんだな。」
僕のはどうしてもこんなで、言うことをきかなくて・・・、とぶつぶつ自分の髪に文句を言いながらまたホープは自分の髪を撫で付けている。
「そうでもないぞ、私はお前の髪は好きだ。」
そう言って笑って見せるとホープも小さく笑い声を上げて楽しそうに頷いた。
「・・そろそろ、寝たほうがいい。明日も歩き通しだ。」
ライトニングの促しに素直に頷いたきり、横になろうとしないホープを不審に感じ振り返ると、少年は薄く頬を赤くしていた。 「あの・・・、隣で寝ても・・・?」
恥ずかしいのだろうか、
「いいぞ、おやすみ、ホープ」 ようやく横になったその身体に自らの背にかけていた布をかけると小さい耳が赤く染まるのが見えた。
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あすをしんじられる宵